『オセアニア美術にみる「知流」を超えるもの』(2005年 里文出版)より抜粋
■序に代えて オセアニア美術の中に「いま、生きる力」/岡本 敏子
鶴ヶ島市オセアニア・コレクションのニューギニアの仮面や神像の迫力はすごい。ニューギニアというと、遠くの島で、何か野蛮でグロテスクなものと思っている人もいるかもしれない。日本人はことに欧米崇拝で、そういうものを下にみる傾向がある。そういう人こそ、本物を観てほしい。震えあがる。離れられなくなる。
岡本太郎は一八歳でパリに渡り、パリ大学で哲学、社会学を経てマルセル・モースに民俗学を学び、オセアニアを専攻した。フランスの民俗学は、民族の生活の中から出てきた宗教、道具、生きる知恵など、あらゆるものから客観的に、その民族の生き方を捉えようという学問である。ゼミはミューゼ・ド・ロム(人間博物館)で行われたから、毎日のように、大量の文献やコレクション、大勢の学者たちに囲まれていた。それが岡本太郎の青春だった。だから鶴ヶ島の作品を観たらどんなに喜んだかと思う。ここに連れてきてあげたかった。
あるとき、上野の博物館で、心から震え上がるものに出合う。大きな目をして「なんだこれは」って、何度も周りをぐるぐる回って観た。それが縄文土器だった。縄文土器は、一つ一つがオリジナル。端の端まで神経が通っている。ニューギニアのものもそう。なにか、ぐちゃぐちゃすごい穴が空いていて、どうやって彫ったのだろうと思うけれど、ピーンと張りつめて全部ピリピリ神経が通っている。いいかげんに観たら損をする。ニューギニアの人たちや縄文人は、みんなピリピリ生きていた。それが「生きる」ということなのだ。
■パプアニューギニア文化財にみるカミ思想/大崎 正治
私の限られた知見とリサーチから見るかぎり、鶴ヶ島市や今泉博物館(新潟県塩沢町)などが所蔵するPNG、とりわけセピック河流域諸民族、の宗教文化財(これらを今泉PNGコレクションと総称しておこう)は、フィリピンひいては東南アジアの先住民によるものと比べると、イメージといいデザインといい、ずばぬけて豊かさ・華麗さ・強烈さ・一貫性を備えている。その点では、PNGの文化財は、仏教・ヒンドゥー教・キリスト教・イスラム教・儒教・道教などのような成立宗教(つまり世界宗教)をもった各地多数民族の宗教文化財と同じ高い芸術的レベルに立つといえよう。
現在、今泉記念館アートステーションにて今泉パプアニューギニアコレクションを60点展示中(写真は展示中の作品の一部)です。太陽の塔が公開されている記念すべき今、岡本敏子氏絶賛のパプアニューギニア作品をぜひご覧ください。
※今泉博物館は道の駅 南魚沼の登録にともない、「今泉記念館」に名称を変更しました。
※鶴ヶ島市と今泉記念館アートステーションのパプアニューギニアコレクションは、今泉博物館の生みの親である今泉隆平氏寄贈のコレクションです。
2018/4/12
【岡本敏子氏(岡本太郎のパートナー)絶賛の今泉コレクション展示中!】