2月26日(日)まで今泉記念館アートステーションにて企画展「複製版画に魅る名画展」が開催されます。
版画には大きく分けて、オリジナル版画と複製版画があります。それらは全く違った行程で制作されるものです。オリジナル版画とは、作家が版画を制作する目的で下絵を描き、版の制作、刷り、最終のチェックに至るまで全行程を作家自身が行うもの、あるいは作家の監修により制作された作品をさします。
一方、複製版画とは版画にすることを目的とせずに描かれた作品を原画として、作家や著作権継承者の許可を得て版画の手法を用いて制作された作品をさします。複製版画は原画を描いた作家が版画制作に関わることはなく、版画工房のみが制作を行います。
オリジナル版画との決定的な違いは作家の自己表現としての版を使用した表現ではなく、第三者が制作する版画という部分です。
しかし、一般の印刷物とは異なり、原画を忠実に再現しており、また、身近に楽しめるといった魅力があります。
企画展「複製版画に魅る名画展」では、竹久夢二の名画『黒船屋』の複製版画をご覧いただけます。
『黒船屋』は夢二の最も有名な作品です。
描かれている女性のモデルは、当時の夢二の恋人である彦乃(しの)といわれています。
1914年、夢二は12歳年下の彦乃と出会います。交際を彦乃の父親に反対され、二人はお互いを「山(彦乃)」「河(夢二)」と呼び合う秘密の暗号で、手紙を交わしました。やがて二人は京都へ駆け落ちし、一緒に暮らし始めます。
しかし、幸せな時間は長くは続かず、1918年の暮れに彦乃は肺結核で倒れ、彼女の父親に連れ戻され入院し、そのまま他界。傷心の夢二が描いたのが『黒船屋』です。
黒猫は夢二自身といわれ、それをしっかり女性が抱きかかえています。夢二は死ぬまではずすことのなかった指輪に「しの」と名前を刻みました。最愛の恋人彦乃は生涯、夢二の心に残る女性となりました。
『黒船屋』を描いた1919年、夢二は初めて伊香保を訪れます。以来、この地を度々訪れるようになりました。
上毛三山(榛名山・赤城山・妙義山)の中で、最も女性的な優しさを持つ榛名山。四季折々に美しく変化する雄大な榛名山の山並みは、夢二の心を包み、その稜線に夢二は「山」と呼んだ彦乃の面影を重ねていたのかもしれません。晩年には榛名湖の湖畔にアトリエを構え、数多くの美人画を描きましたが、背景には必ず山が描かれていました。
この機会に、複製版画で『黒船屋』をぜひご覧ください。
2016/11/9
【竹久夢二の代表作『黒船屋』でみる最愛の恋人】